Post on 13-Jul-2020
カタルーニャ独立問題―その歴史的背景と今後の展望―
慶應義塾大学経済学部教授
八嶋由香利
スペイン:自治州国家(17自治州から構成)
カタルーニャ州:全人口の(4,660万)16% (750万人)
中心地:バルセローナ
スペインの中で最も早く産業革命が進行した豊かな州
現在でもスペイン経済の中心の一つ:
スペインGDPの約20%
固有の言語(カタルーニャ語)、独自の歴史や文化
カタルーニャ州とは
3つのシンボルの相克
スペイン国旗 カタルーニャ州旗
カタルーニャ独立旗
押さえておきたい点①
スペインという国家の成り立ち
イサベル(カスティーリャ王国)とフェルナンド(アラゴン連合王国)の婚姻によって成立した「同君連合」
統一後も各王国内の諸制度、言語、文化などは異なったまま維持された→「フエロ」として残存
押さえておきたい点②
自治州 投票率 賛成 反対
バスク 44.7% 69.1% 23.5%
バレンシア 74.1 88.8 7.0
カタルーニャ 67.9 90.5 4.6
マドリード 72.2 86.1 10.1
全国 67.1 87.9 7.8
憲法草案に関するレファレンダム(1978年12月6日)
☆日本人との憲法観の違い☆憲法を受容するか否か、地域差が大きい
19世紀、絶対主義から自由主義へ
近代的な国家建設:行政の中央集権化
(=カスティーリャ化)
一方的な国民統合に対し、周辺地域から反発
カタルーニャやバスクなど
19世紀後半、カタルーニャにおける固有の言語や法の復興運動
20世紀に入り、政治的な運動へ発展:
1714年に失った「歴史的諸権利」の回復を
スペインは国家、しかしカタルーニャこそ「ネーション」
1.地域ナショナリズムの覚醒
スペイン内戦(1936-39)後、フランコ独裁成立スペイン・ナショナリズムの伝統を称揚
フランコ死去(1975)後、民主化が進展 「民主化」と「分権化」は切り離せない 17自治州が成立: ”café para todos” カタルーニャ:プジョル州首相の下でカタルーニャという「国家なき国づくり」がすすめられた。
・カタルーニャ語使用の「正常化」 国政:中央政府から自治権を巧みに引き出す戦術
→社会の幅広い支持を集めた
バルセローナ・オリンピック(1992)の成功
2.独裁から民主化へ
3.なぜ今独立なのか?
1)和解(コンセンソ)の精神の薄れ
2)自治憲章の改正問題
3)国民党(中道右派)政権誕生
4)リーマン・ショック後の経済危機
カタルーニャを独立へ向かわせた要因
緑:スペインの一自治州黄:スペイン連邦の中の一国家青:独立国家赤:スペインの一地方
カタルーニャ人の意識調査( 2006~2017)
出典:Centre d’Estudi d’Opinió
2011~12年
2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017
スペイン憲法(1978): スペイン人の「共存の枠組み」
第2条:対立する2つの国家観の妥協
スペインは唯一のネーションvs複数のネーションの存在
民主化を支えた要因:ヨーロッパ加入という悲願
内戦と独裁の記憶⇒コンセンソの精神
憲法制定から40年の経過
・世代交代と人々の意識変化
→コンセンソの精神が希薄化
憲法を成立させた微妙なバランスが崩れた
第2条: 出発点(独立派)vs 到達点(護憲派)
1)和解(コンセンソ)の精神の薄れ
カタルーニャは「ナシオン」か?
新しい政治局面の誕生
・初めて左派+ナショナリスト政権が誕生(2003)
・翌年、マドリードで社労党政権(2004)
→アスナール前政権との違いを演出
自治憲章の改正:州議会→国会→住民投票→成立(2006)
国民党の反対⇒憲法裁判所(TC)へ提訴
TCの違憲判決(2010):
→カタルーニャの人々を「自治」から「独立」へ
☆少数派だった独立派が徐々に拡大
2)自治憲章改正問題
中道左派(社労党)から中道右派(国民党)へ
・アスナール政権(1996~2004)
バスク、カタルーニャとの対決的な姿勢
・ラホイ政権(2011~)
スペイン・ナショナリズム≠フランコ独裁(ファシズム)
=スペイン憲法
→周辺地域を刺激
3)国民党政権の誕生
2012年9月11日(ナショナル・デー)「カタルーニャ、ヨーロッパの新国家!」
危機前:空前の不動産バブル
2008年リーマン・ショックでバブルの破たん、
銀行危機、ソブリン危機
中央政府だけでなく、州政府も不良債権
赤字削減目標:EU→中央政府→州政府
医療や教育で予算カット→住民の不満の高まり
格差拡大、中間層の縮小
急進的左翼が市民の失望や不満を吸収
州政府を掌握する「集中と統一」は
”soberanista”戦略へ転換
4)経済危機
リーマン・ショック後のGDP推移
http://www.libremercado.com/2014-09-16
各自治州の財政赤字2014年第II四半期(スペイン銀行)GDPの22.3%
2015年州議会選挙:独立派が過半数を制する
→「独立プロセス」の開始
2017年10月1日:独立の是非を問う住民投票実施
10月27日:州議会において「独立宣言」
中央政府の自治への介入(憲法第155条の適用)
プッチダモン州首相ら一部閣僚はベルギーへ逃亡
ジュンケーラス州副首相ら一部は逮捕、拘留
12月21日:州議会選挙
4.「独立宣言」から中央政府の介入
2017年10月27日州議会における独立宣言
5.州議会選挙の結果
反独立派独立派
議席数
・独立派がかろうじて過半数の議席を維持したが、得票率では半分に達しなかった・独立反対派の市民党が初めて第1党に躍進
1)誰が州首相になるのか
2)中央政府との対話、国会での審議
3)分断された社会の修復は
6.今後の展望
次期州首相は?
プッチダモン前州首相(共にカタルーニャ)
アリマダス候補(市民党)
社会の亀裂をどう修復するか
カタルーニャとその他のスペインとの溝
ナショナルなアイデンティティの問題
「憲法違反」「非合法」という理由で解決できない
カタルーニャ社会内部での亀裂
現実:大量の移民、多元的な社会
vs
想像の共同体:ナショナリズム(排除の論理)