AEC2015からAEC2025へ～新たな統合の方向性～

ASEAN創設50周年記念シンポジウム亜細亜大学アジア研究所

石川幸一

内容

•１．AEC2015の成果および評価•２．ASEAN連結性マスタープラン2010の成果•３．AEC2025ブループリントと統合戦略行動計画•４．ASEAN連結性マスタープラン2025•５．AEC2025の方向性

ASEAN経済共同体（AEC)2015とその成果• 2015年12月31日AEC2015は「創設」されたが、目標が全て「実現」したわけではない

• AEC2015ブループリントの実行率：優先措置に対して93.9％、全措置に対して82.3％（2015年12月末）

• 4つの戦略目標の実行率（事務局評価2015年10月末）：①単一の市場と生産基地：92.4％、②競争力のある経済地域：90.5％、③公平な経済発展：100％、④グローバルな経済への統合：100％

• 2015年末のAEC創設＝実現への通過点：①実現されていない措置がある、②措置の実現が「目標の実現」とは限らないことがある

AEC2015主要分野の評価関税撤廃 ◎ 100％近い自由化を実現

非関税障壁撤廃 × 進展は極めて限定されている

貿易円滑化 △ ASEANシングルウィンドウなど遅れ

サービス貿易自由化 〇 遅れている（第10パッケージ交渉中）、例外を容認

金融・資本市場統合 △ 2020年が目標、実質的な取り組みを始めたところ

投資自由化 〇 最低限の規制を残し自由化

熟練労働者の移動 △ 熟練労働者のみが対象、8職種の資格の相互承認取決め、実効性は今後

交通運輸 △ 2020年目標、ASEAN高速道路網、シンガポール昆明鉄道との遅れ

域内格差縮小 〇 着実に格差は縮小したが、依然として大きい

域外とのFTA ◎ 5つのASEAN＋１FTAを締結、香港と交渉中、RCEP交渉中

（出所）石川幸一が作成

ASEAN連結性マスタープラン2010の評価• ASEAN連結性マスタープラン（MPAC)：3つの連結性（物的連結性：道路、鉄道などインフラ整備が中心、制度的連結性：輸送協定など、人と人の連結性：人の移動）を強化するための計画でAECブループリントを補強、AEC実現で重要な位置づけ

• MPAC2010の実行率（2016年10月時点）は極めて低かった（ASEAN事務局）：全措置（125）に対する完了した措置（39）の比率は31.2％

• 物的連結性の実行率32.7％、制度的連結性30.0％、人と人の連結性30.0％• ASEAN高速道路ネットワークの例：完了した措置２、実施中の措置6、完了未定の措置3

• 16年以降に完了の措置（63）、完了未定の措置（16）、その他（７）• 完了未定の措置の例：スンダ海峡の架橋、シンガポール昆明鉄道のスラバヤへの延伸調査、47港湾の能力強化、カンチャナブリーダウェイの鉄道FSなど

AECブループリント2025を採択• 2015年11月の首脳会議で「ASEAN共同体ビジョン2025」および「ASEAN経済共同体（AEC)ブループリント2025」を採択

• AEC2015 の4つの柱（戦略目標）に対し5つの柱（統合、競争力、連結性、包摂、グローバル化）で構成

• 基本的にAEC2015を踏襲、抜本的な変更（たとえば関税同盟、単純労働者の移動、共通通貨など）はなく、政府調達の開放もない

• ASEAN連結性マスタープラン（MPAC)2025とASEAN統合イニシアチブ（IAI）ⅢはAEC2025を構成

• 措置をいかに各国で実施するのかに留意：実施メカニズムの明確化、ガバナンスやオーナーシップ（主体性・当事者意識）、スコアカードに代わるモニタリングや評価の方法の採用

• 2017年2月にAEC2025統合戦略的行動計画（CSAP)を採択：153の戦略的措置と325の行動計画、スケジュール、担当組織、作業計画を示す

AEC2025ブループリントの概要

• １．高度に統合され結束した経済：①物品貿易、②サービス貿易、③投資環境、④金融統合・金融包摂・金融安定、⑤熟練労働者、商用訪問者の移動促進、⑥グローバル・バリュー・チェーンへの参画強化

• ２．競争力があり革新的でダイナミックなASEAN：①競争政策、②消費者保護、③知的所有権協力、④生産性主導の成長、イノベーション、研究開発など、⑤租税協力、⑥良好なガバナンス、⑦効果的・効率的・対応性のある規制、⑧持続可能な経済発展、⑨グローバルなメガトレンド・通商に関する新たな課題

• ３．高度化した連結性と分野別協力：①輸送、②情報通信技術（ICT）、③電子商取引、④エネルギー、⑤食料・農業・林業、⑥観光、⑦保健医療、⑧鉱物資源、⑨科学技術

• ４．強靭で包摂的、人間本位・人間中心のASEAN：①零細中小企業、②民間部門の役割強化、③官民連携、④開発格差縮小、⑤地域統合へのステークホールダーの貢献

• ５．グローバルなASEAN：戦略的貿易パートナーとのFTA/CEPおよびAECのグローバル経済への統合推進

（注）下線は新たな項目

AEC2025CSAP： 物品の貿易の例• ASEAN物品貿易協定（ATIGA)の強化：①輸入関税における最恵国待遇（MFN)適用の検討、②残存関税の撤廃（CLMV、2018年1月）、③非関税措置への取り組み（ガイドラインと規律）など

• 原産地規則の簡素化と強化：①完全累積の可能性の検討、②ASEAN全体での自己証明の実現など

• 貿易円滑化の実施の強化：ATIGA貿易円滑化規定およびWTOの貿易円滑化協定の実施など（税関と規格・基準も貿易円滑化の対象）

• 税関：①ASEANシングルウィンドウの全面実施、②能力構築など• 規格・基準（STRACAP)：①任意規格の調和、②相互承認取組み（MRA)促進のための分野別ガイドライン作成など

• 域外とのFTA：①RCEP締結、②ASEAN香港FTAの締結、③ASEAN＋１FTAの見直し、④EU、米国、ロシア、カナダとの貿易投資作業計画

AEC2025CSAP サービス貿易と投資（サービス貿易）• 柔軟措置、閾値、例外などの見直し：柔軟措置として15％柔軟性規定、閾値として第3モード（サービス投資）における出資比率70％規制、例外分野も多く残る

• 外資に魅力的な環境を創出するためASEANサービス貿易協定（ATISA)の交渉推進

• 非経済的目的、開発目的などによる国内規制についての規律• ATISAセクター別付属書の検討：通信、金融サービスなど（投資）• 投資の障害と制限の撤廃• ASEAN包括的投資協定（ACIA)留保リストの削減

ASEAN連結性マスタープラン2025• 3つの連結性はMPAC2010と同じだが、戦略目標は3つの連結性で分けられていない

• 5つの戦略目標と目的：①持続可能なインフラ（インフラ投資の増加、持続可能な都市開発など）②デジタル・イノベーション（零細中小企業支援、ITを使った金融アクセスなど）、③継ぎ目のないロジスティクス（サプライチェーンコストの速度と信頼性向上など）、④優れた規制（基準・認証調和、非関税措置削減）⑤人の移動（ASEAN域内旅行の容易化、高等教育の交流など）

• 15のイニシアチブ（行動計画）、その評価指標、主要実施担当組織、137の詳細な作業計画とスケジュールを含む

• MPAC2010の実施中および完了未定の措置52を取り込む

AEC2025とその方向性• AEC2015に比べ目標は地味だが重要：関税撤廃など統合面で進展したため• 戦略的措置数：統合26、競争力47、連結性と分野別協力51、包摂（inclusive）23、グローバル化6

• 統合の深化：国境措置（関税撤廃）から国内措置（behind the border measures）に取り組む:非関税障壁、貿易円滑化、基準・規格、サービス貿易→実施はAEC2015に比べ難しくなる

• 成長戦略、包摂的な成長、規制改革など国内改革を重視• 経済成長（成長戦略）と同時に包摂（インクルーシブ）を追求（国内措置）①成長：生産性、イノベーション、規制改革、ICT、電子商取引、輸送とエネルギー②包摂：域内格差、零細中小企業、保健医療、消費者保護、食の安全・栄養

• 背景に新たな課題：中所得の罠、急速なIT化、輸送インフラと制度、健康や福祉、国内格差、反グローバリズム、持続可能な開発などに対応

• ASEANの役割の変化：枠組み作り、行動計画とネットワーク作り、調和・支援、モニタリングと評価、人材育成など

• 民間部門の関与・役割の増加、ステークホールダーの参加• 外国からの支援、投資への期待は継続しているが、 ASEANおよび加盟国の自助努力（ownership)を重視

ご清聴ありがとうございました参考文献•「世界経済評論 2017年9月10月号 ASEAN特集」文眞堂

•石川幸一・清水一史・助川成也共編著（2017）「ASEAN経済共同体の創設と日本」文眞堂