- 13 -
- 13 -
§1.5. 線型形式と双対空間
V を複素数体 K 上の線型空間とする.このとき,V から K への線型写像を,
線型形式1)という.線型形式は以下のように定義される.
定義 1-22:線型形式
線型空間 V からスカラー体 K(ここでは複素数体を想定する)への写像 f が,x∈
V を使って
𝑓: 𝒙 ⟶ 𝑓(𝒙)
と定義されている時,f がベクトル∀x, ∀y∈V およびスカラー∀α∈K に対して
(3.1)
(3.2)
を満たす時,f を V 上の線型形式という. f(x)は f•x とも表記する.
定義 1-23.線型形式の和とスカラー倍
線型形式 f と g,および複素数体 K の元 c(∈K)をとり,f と g の和と f のスカラー
倍を
和:: f + g : x∈V → f(x) + g(x) ∈K (3.3)
スカラー倍:: cf : x∈V → c×f(x) ∈K (3.4)2)
と定義する.またこの定義を
(f + g)(x)= f(x) + g(x) (3.5)
(cf)•(x)=c×f(x) (3.6)2)
とも書く.
定義 1-24:双対そうつい
空間
定義 1-22 で定義された V 上の任意の線型形式 f を全て集めた集合に定義 1-23
の様な和とスカラー倍が定義されている時,これを V*と書きV の双対空間とよぶ. 定理 1-25:
V*は,K 上の線型空間である.3)
【証】定義 1-24 より V*は,和とスカラー倍について閉じている.また,複素数の性
質と定義 1-22 により,任意の x に対して,
(f + g)• (x)
= f(x) + g(x)
= g(x) + f(x)
= (g+ f)•(x) (3.7)
である.すなわち,任意の元∀x∈V に対して
€
f (x + y) = f (x) + f (y)
€
f (αx) =αf (x)
定義 1-22 より
複素数の和の交換法則
1) 線形形式の定義から解
るように,線形形式の独立
変数はベクトル x,従属変
数(像)f(x)は数値である. 線型形式は,線型汎関数
とも呼ばれる.
2)定義式中の「×」は,通常
の数値のかけ算を意味す
る.
定義 1-22 より
3) V*を V の双対空間とい
い,その元を双対ベクトルと
いう.
- 14 -
- 14 -
(f + g)•(x) = (g + f)•(x)
が成り立つ.従って写像の相等の定義 1-16 により
f + g = f + g (3.8)
である.また任意の x に対して,
[(f + g) + h]]•(x) = [f(x) + g(x)]+ h(x)
= f(x) +[g(x) + h(x)] = [f + (g + h)]•(x) (3.9)
であるから,
(f + g) + h = f + (g + h) (3.10)
が成り立つ.次に,零形式 o1)をとると,任意の元∀x∈V に対して,
o(x)=0
より,
(f + o)(x) = f(x) + o(x) = f(x) + 0 = f(x) = f•(x) (3.11)
である.x は任意なので
f + o= f
が成り立つ.よって単位元(零元)が存在する.また,任意の f に対して f–1= (-1)f
をとると,
(f + f–1) (x) = f(x) + f–1(x) = f(x) + (-1)f(x) = 0 = o(x)
なので,
f + f–1= o (3.12)
すなわち任意の f に対して逆元 f–1 が存在する2).さらに
[c(f+g)]•x=c[(f+g)•x]= c[f(x)+g(x)]= cf(x)+cg(x)=[cf+cg](x)
であり,x は任意であるから,
c(f+g)= cf+cg
である.(c+c’)f=cf+c’f および(cc’)f=c(c’f)も同様にして証明できる.また,スカラ
ー値 1 は,
(1•f) (x)=1•(f(x))= f(x)
なので,(1•f)(x) = f(x)となり,
1•f = f
が成り立つ.したがって,V*は,線型空間の公理 1)-8)を全て満たしている.■
§1.6.ブラ・ケット記法
第 1 章定義 1-11 で導入した Hilbert 空間 V の元である状態ベクトル aを
a ⇒ |a〉
と書き,ケット(ベクトル)と呼ぶ.ケットのイメージ 3)を把握するために,しばしばと
りあげられる例として|a〉が成分 a1 と a2 の二つの数で決まる場合がある.この場
2)左記の逆元 f–1=(-1)•f を
–f と書く.
1)特殊な線型形式として全
てのベクトル x を K の元 0 に
対応させる写像は,明らか
に線型形式である.これを
零形式といい,o で表す.(すなわち o(x)=0)
3)あくまでもイメージである.
- 15 -
- 15 -
合,|a〉を2項数ベクトルと同一視することにより
のように,列ベクトルで表す.当然この|a〉は,和とスカラー倍を well-defined に定
義することにより,先に述べた Hilbert 空間の公理を全て満たす.では,行ベクト
ルに相当するものはあるのか.それがブラ(ベクトル)である.以下では,ブラの
定義に必要な定義 1)と定理を提示する.
定義 1-26:内積による線型形式の表現
任意のケットベクトル |a〉, |x〉(∈V)に対して,それらの内積 y が,
(複素数) (1)
であるとする.|a〉を固定したとき,この関係式は,|a〉をパラメータとする
|x〉 → y (2)
で定義される写像(線型形式)を表現していると考えることができる.そこで,(2)
式の写像を とかき,この写像を,
: |x〉 → (3)
と定義する.また,(3)式の像,すなわち𝐹(|*⟩を|𝑥⟩に作用させた結果を,
𝐹(|*⟩|𝑥⟩ = (|𝑎⟩, |𝑥⟩) (3a)
とかくことにする.
この写像𝐹(|*⟩に関して以下の二つの定理が成り立つ.
定理 1-27
𝐹(|*⟩は,線型写像である.
[証] 内積の定義より
𝐹(|*⟩[|𝑏2⟩ + |𝑏4⟩] = (|𝑎⟩, |𝑏2⟩ + |𝑏4⟩)
= (|𝑎⟩, |𝑏2⟩) + (|𝑎⟩, |𝑏4⟩) = 𝐹(|*⟩|𝑏2⟩ + 𝐹(|*⟩|𝑏4⟩ (4)
また,
𝐹(|*⟩[𝛼|𝑏2⟩] = (|𝑎⟩, 𝛼|𝑏2⟩) = 𝛼(|𝑎⟩, |𝑏2⟩) = 𝛼𝐹(|*⟩[|𝑏2⟩] (5)
である.よって,F|a〉は,線型写像である.■
定理 1-28
写像𝐹(|*⟩の集合 A
(6)
は,線型空間 V の双対空間 V*である.
[証] 写像𝐹(|*⟩の和とスカラー倍を
a =a1a2
!
"##
$
%&&
| a〉, | x〉( ) = y ∈C
F|a〉F|a〉 a , x( )∈C
A = Fa F|a〉 b = a , b( )∈C, for ∀ a , ∀ b ∈V{ }
1)量子力学では,双対写像
が内積によって具体的に与
えられた場合が極めて重要
である.
- 16 -
- 16 -
7𝐹(|*⟩ + 𝐹(|*8⟩9|𝑥⟩ = 𝐹(|*⟩|𝑥⟩ + 𝐹(|*8⟩|𝑥⟩ (6a)
7𝛼𝐹(|*⟩9|𝑥⟩ = 𝛼7𝐹(|*⟩|𝑥⟩9 (6b)
と定義する.集合 A の定義により𝐹(|*⟩|𝑥⟩ = (|𝑎⟩, |𝑥⟩)であるから,
7𝐹(|*⟩ + 𝐹(|*8⟩9|𝑥⟩ = (|𝑎⟩, |𝑥⟩) + (|𝑎′⟩, |𝑥⟩) ∈ 𝐶 (7)
である.同様に,
(8)
7𝛼𝐹(|*⟩9|𝑥⟩ = 𝛼(|𝑎⟩, |𝑥⟩) ∈ 𝐶
である.よって,和とスカラー倍が集合 A の条件を満たすので,𝐹(|*⟩ + 𝐹(|*8⟩ ∈ 𝐴か
つ𝛼𝐹(|*⟩ ∈ 𝐴となり,確かに A は和とスカラー倍について閉じている.さらに線型
空間の公理 1)-8)が成り立っていることも,内積の性質を使って示すことができる.
したがって,A は線型空間であり,V の双対空間 V*である.■
A の元 はベクトルであり, の双対ベクトルと呼ばれる.量子力学では,
この双対ベクトルである線型写像 を と書き,ブラ a もしくはブラベクトル a と
呼ぶ.以上ブラベクトルの定義を次の定義にまとめておく.
定義 1-29.ブラベクトルをケットベクトルの双対写像として以下のように定義す
る.
(7)
この記法(あるいは定義)を使うと,内積 は,1)
(|𝑎⟩, |𝑏⟩) = 𝐹(|*⟩|𝑏⟩ = ⟨𝑎||𝑏⟩ = ⟨𝑎|𝑏⟩ (8)
と書ける.最後の等号は,二本線を一本に省略しただけである.以後,ケット|a〉
とケット|b〉の内積 を,ケット|b〉にブラ〈a|を作用させた像 と同一視する
ことにする.この定義を使うとブラとケットの対応関係に関する以下の定理が成
り立つ.
定理 1-30: 双対写像𝐹(|*⟩とブラベクトル⟨𝑎|の間に以下の関係が成り立つ.
(1)𝐹(?|*⟩ = 𝛼∗⟨𝑎| (3)𝐹(B(|*⟩ = ⟨𝑎|𝐴CD
(2)𝐹(|*⟩E|F⟩ = ⟨𝑎| + ⟨𝑏| (4)𝐹(B(G(|*⟩ = ⟨𝑎|𝐵(D𝐴CD
[(1)の証明] 𝐹(|*⟩と内積の定義(p.6)より,任意のケットベクトル∀|b〉に対して,
(9)
が成り立つ.最右辺は(7)式より,
(9)
となるので,(9)式は,
(10)
となる.ここで,(10)式は任意の∀|b〉に対して成り立つので,
€
(αFa ) b =α a , b( )∈ C
Fa
€
a
Fa
€
a
Fa = a
€
a , b( )
€
a , b( )
€
a b
€
Fα a( ) b = α a , b( ) =α* a , b( ) =α*Fa b
€
α*Fa b =α* a b
€
Fα a( ) b =α* a b
1):ここでいう内積は,高校時
代に使った
ではない.本テキストにおける
内積の定義は四つの式が成
り立つ演算を意味し,それ以
外の意味は無い.
a•b = a ×
b × cosθ
- 17 -
- 17 -
(11)
である.
[(2)の証明] 省略.
[(3)の証明] 写像𝐹(B(|*⟩は定義により
(12)
となる.†, と の定義より,
(13)
この式の最右辺はケット|b〉に †を作用させ続いて〈a|をさせる合成写像の定義
になっている.よって(13)式は,
(14)
と書くことができる. |b〉は任意にとれるから(14)式より,
(15)
が得られる.
[(4)の証明]
𝐹(B(G(|*⟩|𝑥⟩ = 7𝐴C𝐵(|𝑎I, |𝑥⟩9 = 7𝐵(|𝑎I, 𝐴CD|𝑥⟩9 = 7|𝑎⟩, 𝐵(D𝐴CD|𝑥⟩9
= ⟨𝑎|7𝐵(D𝐴CD|𝑥⟩9 = ⟨𝑎|𝐵(D𝐴CD(|𝑥⟩)
この式は,明らかに任意の|𝑥⟩に対して成り立つ.よって,
𝐹(B(G(|*⟩ = ⟨𝑎|𝐵(D𝐴CD
である.
§1.7.共役関係(双対共役)
〈a|の定義(7)式により,|a〉からつくられる双対ベクトルは,ブラベクトル〈a|である.
そこで,(7)式中の𝐹(|*⟩のパラメータ|a〉と〈a|の対応関係
|a〉 〈a| (16)
を双対共役の関係と呼ぶことにする. すると,定理 1-23 より,以下の四つの対
応関係が成り立つ.
a|a〉 〈a| a� (17)
|a〉 + |a’〉 〈a| + 〈a’| (18)
 |a〉 〈a|† (19)
𝐴C𝐵(|𝑎I ⟨𝑎|𝐵(D𝐴CD (20)
これらの対応関係にあるベクトルは,互いに他方を自分の双対共役ということにする.
§1.8.固有値問題(その1)
準備 1-31 行列に関する予備知識
数字を縦横に並べて書いてカッコでくくったものを,行列という.縦に並べた数が
m 個,横に並べた数が n 個であるとすると,
€
Fα a =α* a
€
F ˆ A a : b → F ˆ A a b = ˆ A a , b( )Fa
€
a
€
F ˆ A a b = ˆ A a , b( ) = a , ˆ A † b( ) = F aˆ A † b[ ] = a ˆ A † b[ ]
€
F ˆ A a b = a ˆ A †[ ] b
€
F ˆ A a = a ˆ A †
共役
- 18 -
- 18 -
𝐴 = J𝑎22 ⋯ 𝑎2L⋮ ⋱ ⋮
𝑎O2 ⋯ 𝑎OLP
あるいは,
𝐴 = 7𝑎QR9𝑖 = 1, 2,•••,𝑚; 𝑗 = 1, 2,•••,𝑛
となる.行列は,以下のように和,スカラー倍,積を定義できる.
行列 𝐴 = 7𝑎QR9, 𝐵 = 7𝑏QR9𝑖 = 1, 2,•••,𝑚; 𝑗 = 1, 2,•••, 𝑛,ベクトル𝒙 = (𝑥Q)𝑖 =
1, 2,•••,𝑚,スカラーl (𝜆 ∈ 𝑅𝑜𝑟𝐶)とする時,
(1) 和:𝐴 + 𝐵 = (𝑎QR + 𝑏QR) (2) スカラー倍:𝜆𝐴 = (𝜆𝑎QR)
(3) 積その1:𝐴𝒙 = 7𝑎QR97𝑥R9(𝑖 = 1, 2,•••,𝑚; 𝑗 = 1, 2,•••, 𝑛)
= 7∑ 𝑎QR𝑥RLR`2 9(𝑖 = 1, 2,•••,𝑚)
(4) 積 そ の 2 : 𝐴 • 𝐵 = 7𝑎QR9 • 7𝑏Ra9 = 7∑ 𝑎QR𝑏RaLa`2 9𝑖 = 1,2 •••,𝑚; 𝑗 =
1,2,••• 𝑛, 𝑘 = 1,••• 𝑙
以上の定義をもとにこの節のテーマである固有値問題の一例を提示する.
問題を簡単にするため,二成分ベクトルと二行二列行列を使う場合を考える.行
列 C を
𝐶 = d𝑐22 𝑐24𝑐42 𝑐44f
とする時,
𝐶𝒂 = 𝜆𝒂
を満たす列ベクトル a とスカラーλを決める問題を固有値問題という.固有値問
題は,量子力学における状態と物理量を,実測値に結びつけるための鍵になっ
ている.以下では,列ベクトルを Hilbert 空間のベクトルに,行列を V 上の写像に
一般化した固有値問題を議論する.
定義 1-32. Hilbert 空間 V 上の写像(演算子)Â に対し,
𝐴C𝒂𝝀 = 𝜆𝒂𝝀 (1)
を満たす al=0 でない解 1)が V 中に存在する時,複素数λを Â の固有値,alを
λに属する固有ベクトルとよぶ.また,(5.1)式を固有値方程式,(1)式で与えられ
た問題を固有値問題という.
数学系出身の人には,いやがる人が多いのだが,(1)式を
𝐴C|𝑎⟩ = 𝜆|𝑎⟩ (1a)
と書くのが数理物理•数理化学分野での習慣になっている.すなわち,(1)式にお
いて,
(1b)
(1c)
と置き換えるのである.この置き換えは,ケットベクトル|l〉が,固有値 a の
aλ !→! a
λ!→! a
1) ブラケット記法では,|a〉
が零ベクトルではない解.
|a〉=0 の 0 は,数字のゼロ
ではなく,零ベクトルを意
味する.これを自明でない
解という.
注:転置行列の記号 t の使
用例.
t a1,a2( ) =a1a2
!
"##
$
%&&
- 19 -
- 19 -
固有ベクトルであることを,添字を倹約しながら明示するために工夫された
ものであろう.
(1)式のように定義された固有値と固有ベクトルは, が自己共役であるとき
には,著しい性質を持つ.なお,以下に述べる定理 1-33 と 1-34 は,固有値が離
散的か連続的かに関わらず成り立つ.(証明では固有値の離散性あるいは連続
性を使っていないことに注意!)
定理 1-33.自己共役演算子の性質1
自己共役演算子  の固有値は実数である. [証] 定義 1-20(p.12)より, は,
(2)
を満たす.ここで, が自己共役(定義 1-21)であることより †=  なので,
(2a)
である.今 とし,これに(1a)式を代入すると,
(3)
である.一方,p.8 の内積の定義より,
(4)
である.さらに,内積の定義より|𝑎⟩ ≠ |0⟩の時には なので
(5)
である.よって a は実数である.■ 定理 1.33 が保証する自己共役演算子の固有値が実数である性質は,物理
量 Â1)の測定値が実数であることに対応すると考えると都合が良い.さらに加え
て,自己共役演算子 Â の固有ベクトルは,以下の性質を持つ. 定理 1-34.自己共役演算子の性質2
自己共役演算子 Â の異なる固有値に属する固有ベクトルは直交する. [証] Â の異なる固有値 a, b (a≠b)に属する固有ベクトルをそれぞれ|a〉, |b〉とす
る時,固有値方程式は,
(6)
(7) である.(6)式の両辺に,左から〈b|をかけると,
(8) 一方,(7)式の両辺の双対共役をとると, (9) ところが, が自己共役であることから,
€
ˆ A a , b( ) = a , ˆ A † b( )
€
ˆ A a , b( ) = a , ˆ A b( )
€
b = a
€
a a , a( ) = a ,a a( )
€
a* a , a( ) = a a , a( )
€
a , a( ) > 0
€
a* = a
€
ˆ A a = a a
€
ˆ A b = b b
€
b ˆ A a = a b a
€
b ˆ A † = b* b
1)「量子力学では,物
理量は線型演算子で表
される」という仮定を後
の章で述べる.
- 20 -
- 20 -
である.一方,定理 1-33 より
であるから,(9)式は,
(10) となる.この式の右から|a〉をかけると,
(11) (8)式から(11)式を辺々引くと,
仮定より b≠a だから,
よって,|a〉と|b〉は直交する.■ 定理 1-34 では,異なる固有値に属する固有ベクトルは直交することを述べた.では,
同じ固有値に属する一次独立な固有ベクトルが複数個(例えば n 個)ある場合(このよ
うな現象を縮退という)は,どうなるのか.まず,いくつかの言葉の定義を準備する. 定義 1-34a1).一次独立(線型独立) n 個のベクトル|𝑎Q⟩ (i=1,2,3,•••,n)が,
k𝑥Q|𝑎Q⟩L
Q`2
= |0⟩(12)
を満たすのが xi=0 (i=1,2,•••n)の時のみである時,n 個のベクトル|𝑎Q⟩は互いに一
次(線形)独立であるという.また,一次独立でないベクトルを一次従属という.一
次独立の定義は,現実世界の平行でない矢線ベクトルに対応しており,高校数
学の問題演習でも利用されている. 定理 1-352).自己共役演算子 Â の固有値 a に縮退があり,a に属する n 個の一
時独立な固有ベクトルを|𝑎,𝑚⟩ (m=1,2,3•••••,n)とする時,
𝐴C|𝑎,𝑚⟩ = 𝑎|𝑎,𝑚⟩ (13)
である.ここで,
|𝑎, 𝑖⟩ =k𝐶QR|𝑎, 𝑗⟩L
R`2
(13𝑎)
とおき,適当な Cij を選ぶことにより,任意にとった|a,i〉と|a,i'〉(i, i'=1,2,•••n)に関
して,
(14)
を満たすようにすることができる. 証明はしないが,この定理 1-35 により,固有値 a に関して縮退がある場合でも,
固有ベクトルを,それらが全て直交するように,取れることが保証される.
€
ˆ A † = ˆ A
€
b = b*
€
b ˆ A = b b
€
b ˆ A a = b b a
€
(b− a) b a = 0
€
b a = 0
€
a,i' a,i = δi ',i
2) この定理は,線形代数の
中ではよく知られた Schmidtの直交化法を使って証明する
ことができる.Schmidt の直交
化法は Wiki で検索すればす
ぐ調べられる.
1)通常の記法では,一次独立
(線形独立)とは,n 個のベクト
ル (i=1,2,3,•••,n)が,
を満たすのが xi=0 の時のみで
ある時, は一次(線形)独立
であるという. さらに,上式の左辺を, の
一次結合とよぶ.もちろん本文
(12)式左辺の和も|𝑎Q⟩の一時
結合である.
€
a i
€
xi a i
i= 1
n
∑ = 0
€
a i
€
a i
- 21 -
- 21 -
固有値方程式(1a)で与えられる固有ベクトル|𝑎⟩は,そのノルムを 1 に規格
化できる.なぜなら|𝑎⟩のスカラー倍は(1)式を満たすからである.具体的には,
|𝑎⟩m =1
n⟨𝑎|𝑎⟩|𝑎⟩(15)
で与えられるケット・ベックトル|𝑎⟩mはノルムが 1 であり,同時に明らかに固有値
方程式(1a)式を満たしている.(代入すれば,左辺と右辺が等しくなる) 定理
1-34 と定理 1-35 の結果と一緒にしてまとめると,
(16)
となる.(16)式を固有ベクトルの規格直交性という.また,a と i の組(a, i)を一つ
のベクトルと考え a とかき,(16)式を簡略化して,
⟨𝒂8|𝒂⟩ = 𝛿𝒂q𝒂 (16a)
とかくことにする.この a を使う記法を使うと,定理 1-34 は定理 1-35 と合体させ
定理 1-34b.自己共役演算子の性質2b
自己共役演算子 Â の異なる順序対 a=(a, i)に属する固有ベクトル
は直交する.ただし a は Â の固有値である.
と表現することが出来る.なお,以後は簡単の為に順序対 a を単に固有値と呼
ぶことにする. 定理 1-36(1.8.6) 自己共役演算子の性質3
自己共役演算子 Â の固有ベクトル|𝒂⟩ (∈V) は,完全系を作る.つまり,
𝐴C|𝒂⟩ = 𝑎|𝒂⟩ (17)
を満たす|a〉の集合 VE を
𝑉s = t|𝒂⟩|𝐴C|𝒂⟩ = 𝑎|𝒂⟩, |𝒂⟩ ∈ 𝑉u (18)
と定義すると,Hilbert 空間 V の任意のベクトル|y〉は,VE の元である固有ベクト
ル|𝒂⟩と固有値 a に依存するスカラーψ(a)を使って
|𝜓⟩ =k𝜓(𝒂)|𝒂⟩ (19)𝒂
の形に表すことができる.
[証](16a)式を満たす固有値の番号を振り直し1),𝑎Qに属する固有ベクトルを
|𝑎Q⟩(‖|𝑎Q⟩‖ = 1,x𝑎Qy𝑎RI = 𝛿QR,i=1,2,3•••)と書くことにする.これを利用して,任意
のベクトル|𝜓⟩(∈V)に対して,|𝑎Q⟩により以下のような近似ベクトル列{|𝜓Q⟩}を作
ることが出来る.2)
|𝜓2⟩ = |𝜓⟩ − |𝑎2⟩⟨𝑎2|𝜓⟩ (20a)
|𝜓4⟩ = |𝜓2⟩ − |𝑎4⟩⟨𝑎4|𝜓2⟩ = |𝜓⟩ − |𝑎2⟩⟨𝑎2|𝜓⟩ − |𝑎4⟩⟨𝑎4|𝜓⟩ (20b) ⋮
€
a' ,i' a,i = δa ',aδi ',i
2 ) こ の ア ル ゴ リ ズ ム は ,
Schmidt の直交化法として知ら
れている.
1) 縮退があり同じ固有値に属
する一次独立な固有ベクトルに
は異なる i を割り振ったと考え
る.異なる値の固有値に関して
は縮退が無い場合と同様に割
り振ればよい.
- 22 -
- 22 -
|𝜓L⟩ = |𝜓L}2⟩ − |𝑎L⟩⟨𝑎L|𝜓L}2⟩ = |𝜓⟩ − ∑ |𝑎Q⟩⟨𝑎Q|𝜓⟩LQ`2 (20c)
⋮ 上記のベクトル列{|𝜓L⟩}のノルムがゼロに収束する時,つまり n→∞の時
‖|𝜓L⟩‖ ~⎯� 0 (20d)
であるならば,n→∞の時, |𝜓⟩ → ∑ |𝑎Q⟩LQ`2 ⟨𝑎Q|𝜓⟩となる.さらに V の完備性によ
り,和の極限 limL→�
∑ |𝑎Q⟩LQ`2 ⟨𝑎Q|𝜓⟩は V に含まれる.よって lim
L→�∑ |𝑎Q⟩LQ`2 ⟨𝑎Q|𝜓⟩を
∑ |𝑎Q⟩�Q`2 ⟨𝑎Q|𝜓⟩と書くことにすれば,
|𝜓⟩ =k|𝑎Q⟩�
Q`2
⟨𝑎Q|𝜓⟩(20e)
となる.従って, Vの任意の元はÂの固有ベクトルにより(20e)の形に展開できる.
固有値 ai は,縮退まで考慮すれば a と書くべきである.したがって,|𝑎Q⟩ = |𝒂⟩お
よび⟨𝑎Q|𝜓⟩ = 𝜓(𝑎Q) = 𝜓(𝒂)と書けば,(20e)および(19)式は縮退がある場合も含
んで成り立つ.■
定理 1-36(1.8.6)は,V の任意の元|y〉が,V の部分集合である VE の元|a〉によっ
て展開できることを主張している.この定理の証明で重要なのは,固有ベクトル
の規格直交性1)を使った(20a-c)式の式変形と,ヒルベルト空間 V の完備性によ
り,(20c)式の右辺にある部分和の n→∞の時の極限値が必ず V の中にあること
が保証されていることであることに注意せよ.この定理の意味は,証明よりも以
下の例を見る方がイメージがわいて分かりやすいかも知れない. 例 1-37(1.8.7):定理 1-36(1.8.6)の具体例
3 次元空間の位置ベクトル r=(r1, r2, r3)は,右の図 1.8.7 中に記した基底ベクト
ル(基本ベクトル)ei(i=1,2,3)を使って,
(21)
と表せる.(20e)式は,これを拡張したものである.ここでいう「拡張」とは,
1)成分の数は,3以上でもよい.
2)成分を区別するための添字 iは連続な数(実数)でもよい.このとき,ベクト
ル r の第 i 成分 ri は,r=r(i)という実数変数の関数となる.
という意味である. 定理 1-36(1.8.6)が成り立つならば,簡単にψ(a)を計算することができる.1)
(19)式の両辺に左から〈b|を掛けることにより
(22)
(16a)式より
なので,(22)式に代入すると
r = r1e1 + r2e2 + r3e3
€
b ψ = ψ(a) b aa∑
€
b a = δb,a
図 1.8.7 上図が図示する(21)式と(25)式の対応は, ei (i=1, 2, 3) → r → ri →
となる. €
a
€
ψ
€
ψ(a)
1)(16)式または(16a)式で表
されるベクトルもしくはベクト
ルの集合の性質を規格直交
性という.
1)ただし,和の極限と極限の
和がどちらも定義できること
が前提であるのは言うまでも
ない.
- 23 -
- 23 -
(23)
よって,a と b を置き換えると
(24)
これを(19)式に代入すると,
|𝜓⟩ =k|𝒂⟩⟨𝒂|𝜓⟩𝒂
(25)
となる.(25)式の形は,量子力学においてしばしば使用される展開式の形である.
ここで注目すべきは,(24)式と(25)式である.この二つは基底ベクトルの集合
が与えられているとき,ベクトル|ψ〉が決まるとスカラーψ(a)(=〈a|ψ〉)の
組が決まる.逆に,スカラーψ(a)の組が決まるとベクトル|ψ〉が決まることを意
味している.すなわち,|ψ〉と t(ψ(a))は,
という形で一対一に対応している.これは図 1.8.7 の中で,位置ベクトル r が決ま
るとその成分 ri(i=1, 2, 3)が決まり,逆に成分 riが決まるとベクトル r が決まること
に対応している.
ここで,もう一つのベクトル|𝜓′⟩を
|𝜓′⟩ =k|𝒂′⟩⟨𝒂′|𝜓′⟩ 𝒂
と展開する.このとき,内積⟨𝜓|𝜓′⟩は,
⟨𝜓|𝜓′⟩ = (|𝜓⟩, |𝜓′⟩)
= Jk|𝒂⟩⟨𝒂|𝜓⟩𝒂
,k|𝒂′⟩⟨𝒂′|𝜓′⟩𝒂8
P = �k⟨𝒂|𝜓⟩∗𝒂
⟨𝒂|�k|𝒂′⟩⟨𝒂′|𝜓′⟩𝒂8
=kk⟨𝒂|𝜓⟩∗𝒂
⟨𝒂|𝒂′⟩⟨𝒂′|𝜓′⟩𝒂8
=kk⟨𝒂|𝜓⟩∗𝒂
𝛿𝒂,𝒂8⟨𝒂′|𝜓′⟩𝒂8
=k⟨𝒂|𝜓⟩∗𝒂
⟨𝒂|𝜓′⟩(26)
となる.この式は,|𝜓⟩と|𝜓′⟩の内積が,*⟨𝒂|𝜓⟩∗というスカラーと⟨𝒂|𝜓′⟩というスカラ
ーの,全ての固有値 a にわたる和であることを示している.特に,|𝜓′⟩ = |𝜓⟩のと
きは,
⟨𝜓|𝜓⟩ =k|⟨𝒂|𝜓⟩|4𝒂
=k|𝜓(𝒂)|4𝒂
(27)
となる.(26)式の結果は,位置ベクトルを成分で表示した時にその内積が
𝑟 ∙ 𝑟8 =k𝑥Q∗ • 𝑥Q8�
Q`2
€
b ψ = ψ(a)δb,aa∑ =ψ(b)
ψ(a) = a ψ
€
a{ }
ψ ← →#tψ(a1),ψ(a2 ),ψ(a3), ⋅ ⋅ ⋅,ψ(an ), ⋅ ⋅ ⋅( )
2)左の式中に出てくるδ b,a
は,クロネッカーのデルタとい
い,以下のように定義されて
いる.
δF,* = �0 𝑏 ≠ 01 𝑏 = 𝑎
- 24 -
- 24 -
と表示できることに相当するものである.
実は,(24)式における固有値 a の関数であるスカラー⟨𝒂|𝜓⟩ (=ψ(a))は,有
機化学や無機化学のテキストに現れる波動関数である.すなわち,波動関数と
は状態ベクトル|ψ〉の固有ベクトル|a〉方向に関する成分だったのである.化学
系の学生が使うことの多い座標の関数としての波動関数ψ(ξ)は,基底ベクト
ルとして位置の演算子 の座標固有値ξに属する固有ベクトルであるδ関数
δ(x-ξ)を取った時の,ξ軸に関する成分なのである.このことについては,連
続固有値のセクションで再度取り上げる.
§1.9. 射影演算子とその性質
定義 1-38(1-9-1) 射影演算子
写像:𝑃(|𝒃⟩⟨𝒂| 𝑃(|𝒃⟩⟨𝒂| ∶ |𝜓⟩|𝒃⟩⟨𝒂|𝜓⟩ (1)
を考える.(1)式中の|𝒃⟩⟨𝒂|𝜓⟩は,ベクトル|𝒃⟩に複素数のスカラー⟨𝒂|𝜓⟩をかけた
(スカラー倍した)ものである.この写像𝑃(|𝒃⟩⟨𝒂|を
𝑃(|𝒃⟩⟨𝒂| = |𝒃⟩⟨𝒂| (2)
と書き,射影演算子という. このテキストでは,|𝒂⟩ = |𝒃⟩の場合,すなわち 𝑃(|𝒂⟩⟨𝒂| = |𝒂⟩⟨𝒂| (2a)
をよく使う.この写像は, 𝑃(|𝒂⟩⟨𝒂|:|𝜓⟩|𝒂⟩⟨𝒂|𝜓⟩ (3)
という対応関係を与えるものである.𝑃(|𝒂⟩⟨𝒂|を|𝜓⟩に作用させたものを (3a)
と書く.(2a)から(3a)式中にでてくる固有値を表すパラメータ a は,順序対(a, j)すな
わち演算子 Â の固有値 a に属する j 番目の固有ベクトル|𝒂⟩に対応している. 定義 1-38a(1-9-1a) 射影演算子(追加)
固有値 a に属する固有ベクトルが縮退し,線型独立1)な n 個のベクトル|a〉=|a, i〉
(i=1, 2, ••••, n)が a に属している場合を考える.このとき,演算子 を,以下の
ように定義する.
€
ˆ x
€
ˆ P a a ψ = a aψ
Pa a
1)再録:線型(一次)独立 n 個のベクトル (n=1,2,3,•••,n)が,
を満たすのが xi=0 の時のみで
ある時, は一次(線形)独立で
あるという.
€
a i
€
xi a i
i= 1
n
∑ = 0
€
a i
- 25 -
- 25 -
=k𝑃(|𝒂⟩⟨𝒂|*
=k|𝒂⟩⟨𝒂|L
Q`2
=k|𝑎, 𝑖⟩⟨𝑎, 𝑖|L
Q`2
(3b).
(2a)式の意味を通常の空間ベクトルで考えてみよう(図 1-9-1 参照).今|𝒂⟩を ei,
|𝜓⟩を r に対応させてみる.内積(ei, r)=|ei |•|r|cosqi (qiは ei と r のなす角)の大きさ
は,ベクトル r を x 軸に射影された影の長さである.ここで(ei, r)は内積〈a|ψ〉に
対応するから,(3a)式の右辺の〈a|ψ〉の大きさは,|a〉に平行な軸に射影された
ベクトル|ψ〉の影の長さに対応している.この影の長さに向きすなわち正負を考
慮したものが正射影である.したがって,写像𝑃(|𝒂⟩⟨𝒂|は,|ψ〉を|a〉の方向への正
射影|a〉〈a|ψ〉に対応させるものである.この様なアナロジーにより,|ψ〉から正
射影|a〉〈a|ψ〉を取り出す演算子(=写像)𝑃(|𝒂⟩⟨𝒂|を射影演算子と呼んでいる.
もし|a〉として演算子 Â の固有ベクトル|a〉をとると, Â|a〉=a|a〉 (4) となるので,任意のベクトル|ψ〉に対して
(5)
となる.よって,|ψ〉の射影 |ψ〉は, の固有値 a に属する固有ベクトルである.
射影演算子の性質を述べるために,§1.8 の(25)式を再び取り上げる.
|𝜓⟩ =k|𝒂⟩⟨𝒂|𝜓⟩𝒂
(6)
この式は
|𝜓⟩ = Jk|𝒂⟩⟨𝒂|𝒂
P |𝜓⟩(7)
とも書ける.すると( )の部分が単位演算子 になっていることに気づく.よって,
k|𝒂⟩⟨𝒂|𝒂
= 𝟏�(8)
である.逆に,(8)式が成立てば,その両辺|𝜓⟩に作用させることにより,(6)式が
得られる.つまり|ψ〉は,必ず固有ベクトル|a〉で展開することができる.この(8)
式は完全性関係または閉包関係と呼ばれている.(8)式は,(2a)式を代入して,
k𝑃(|𝒂⟩⟨𝒂|𝒂
= 𝟏�(9)
と書くこともできる.
€
ˆ A ˆ P a a ψ[ ] = ˆ A a aψ = a a aψ
€
= a ˆ P a a ψ[ ]
€
ˆ P a a
€
ˆ 1
図 1-9-1:位置ベクトルの成分
表示の原理.三次元空間の場
合 , 三 つ の 基 底 ベ ク ト ル
ei(i=1,2,3)が必要.
- 26 -
- 26 -
§1.10.線型演算子の行列表示
先のセクションでは,ベクトルの成分表示と射影演算子の性質について述べた.
ここでは線形演算子の成分表示を試みてみる. 定理 1-39 (1.6.1)
任意の線型演算子𝐵(は,自己共役演算子𝐴Cの固有ベクトルから作った正規直交
基底系{|𝒂⟩}を使って,
(1)
と書ける. [証明]
§1.9 の(8)式より固有ベクトルの正規直交関係から直接導かれる.すなわち,
(2)■
(1)式中に出てくる を演算子𝐵(の行列要素という.また,(1)式を自己共
役演算子 に適用すると,その固有ブラ および固有ケット を使って,
(6.11)
となる.自己共役演算子 Â を(6.11)式の三行目の形に書くことを,スペクトル分解
という.
§1.11.線型部分空間
定義 1-40(1.11.1): 線型部分空間
W を K 上の線型空間 V の部分集合(W⊂V)とする.任意の|ψ〉, |φ〉∈W,
および任意のα∈K に対して,W が
(i) |ψ〉 + |φ〉 ∈W
(ii) a|ψ〉 ∈W
をみたすとき,W を V の線型部分空間という.
B = a a B a' a'!a∑
a∑
B = 1 ⋅ B ⋅1= a aa∑#
$%
&
'( B a' a'
)a∑#
$%
&
'(= a a
a∑#
$%
&
'( B a' a'
)a∑#
$%
&
'(
=a∑"
#$
%
&' a a B a' a'
(a∑"
#$
%
&' = a a B a' a'
!a∑
a∑
a B a'
€
ˆ A a a
A = a a A a' a'!a∑
a∑ = a a a a' a'
!a∑
a∑
= a a a a' a'!a∑
a∑ = a aδaa' a'
!a∑
a∑
= a a aa∑ = aPa a
a∑
- 27 -
- 27 -
定義 1-41(1.11.2): 固有空間
ある固有値 a に属する固有ベクトル|𝒂⟩の線形結合からなる集合 VE を
𝑉s = t∑ 𝜆|𝒂⟩𝒂 y|𝒂⟩は,𝐴C|𝒂⟩ = 𝑎|𝒂⟩を満たす.ただし,λ ∈ 𝐾,|𝒂⟩ ∈ 𝑉u
と書き,固有値 a で指定された固有空間とよぶ.この定義により VE の任意の元
は, に関する同一の固有値 a を持つ.
定理 1-42
固有空間 VE は,線型部分空間である.
【証】まず,VE の定義より|x〉∈VE ならば明らかに|x〉∈V である.従って VE⊂V で
ある1).次に,ある固有値 a に属する固有ベクトルは,縮退がある場合を含める
と2),
(i = 1, 2, •••••, n, •••)
を満たす.今,|a, i〉+|a, j〉に Â を作用させると,
よって,|ai〉+|aj〉∈VE である.同様にしてa|ai〉∈VE (for ∀a∈K)である.よって定
義 1-40 により VE は線型部分空間である.■
§1.12.δ関数
§1.8 でも述べたように,我々は状態ベクトルの成分⟨𝑎|𝜓⟩を波動関数ψ(a)とい
う形で使うことが多い.本節では物理量 Â が連続固有値を持つ場合の議論をし
ておく.そのために,連続固有値をもつ固有ベクトルを使って任意の状態を展開
する時に必要な道具について述べる.また,以後の議論では,話を簡単にする
ために,縮退はないものとする.
定義 1-43(1.12.1) δ関数の定義
任意の連続関数 f(x)について,
(1)
となるようなδ(x)を Dirac(ディラック)のデルタ関数1)という.
例 1-44(1.12.2): (1)式の特殊な場合.
f(x)=1 の時には,
(2)
(1)式は,被積分関数に含まれる関数 f(x’)に,x’=x を代入した値がそのま
A a, i = a a, i
A( a,i + a, j ) = A a,i + A a, j = a a,i + a a, j
= a( a,i + a, j )
f (x ')δ(x '− x)dx '−∞
∞
∫ = f (x)
δ(x '− x)dx '−∞
∞
∫ =1
1)以後,集合の含む含まれるの
関係を曖昧さ無く認識して欲し
い.集合 A と B があり a を A の
要素とする.A⊂B であることの
必要十分条件とは, 「任意の a に対して a∈A ならば,a∈B である.」
が成り立つことである.
2)以前の定義では固有値 a に
属する固有ベクトルを|a〉と書い
た.もし,ある固有値 a に縮退が
あった場合には,aに属する固有
ベクトルは,一次独立なものが
複数個ある.それらを, |a,1〉, |a,2〉, |a,3〉,••|a,n〉,•• と書くことにする.先の記法 |a〉は, |a,i〉のどれか一つをも含ん
で全ての固有ベクトルを一文字aで表している.
1)δ関数は,普通の意味での
関数ではない.定義から解るよ
うに,関数 f を,関数値 f(x)に対
応させる写像である.この様な
写像を汎関数とよぶ.
- 28 -
- 28 -
ま積分値になることを示している.つまり左辺の被積分関数は,x’=xの時以外は
積分に寄与していない.ここで f(x’)は任意なので,この条件を満たすためには
x’≠ x ではδ(x’–x)は常に 0 でなければならない.つまり,
(3)
である.その上で(2)式が成り立つためには,x’=x ではδ(x’–x)は図 1.11.1 のよう
に x’=0 において非常に大きな値を取らなければならない.このような振舞を示す,
デルタ関数δ(x’–x)は,普通の意味の関数ではなく,(1)式や(2)式のように積分
の中に現れて初めて意味をもつ.デルタ関数を含む積分が(7.1)式のようになる
ことに注意する限り,通常の関数のように扱うことができる.逆に言えば,δ関数
を扱う時には,まず(1)式を書いておけば,それほどひどい間違いをしなくてすむ.
(1)式を使うと,以下の公式を導くことができる. 定理 1.12.3.δ(x’-x)の特徴
(a) (b) (c)
ただし,X(x)は x の微分可能な 1 価関数で,その逆関数も一価関数である.また𝑋8(𝑥) = ��(�)��
である.
問題 1.12.4:定理 1.12.3 の(a)-(c)をδ函数の定義を使って証明せよ.
§1.13.連続固有値の場合の固有ベクトル展開
定義 1-45(1.13.1) 連続固有値に関する重ね合わせ1)
自己共役演算子 Â の連続固有値 a に属する固有ベクトルを|𝑎⟩,a の複素数
を値域とする連続函数を c(a)とする時,様々な a について|𝑎⟩を重ね合わせたベ
クトル|𝑏⟩を,
(1)
と定義し,|𝑎⟩の一次結合 (線形結合)と呼ぶ.
図 1.13a. の連続固有値を変数 a と考えたときの,a の変域[a0, an]と a1, a2, • • •, ai, • • •,
an-1 を境界とするその変域の分割.この定義では,a0 と an は固定値とする.
(1)式の定義が,離散固有値の場合に出てきた,一次結合の形
|𝜓⟩ =k𝜓(𝒂)|𝒂⟩𝒂
(1a)
€
δ(x'−x) = 0 for x '≠ x
€
δ(−x) = δ(x)
€
δ(Kx) =1|K |
δ(x)
€
δ X(x) − X(x ')( ) =1
| X '(x) |δ(x)
b = c(a) a∫ da
xx'
図 1.11.1.δ関数δ(x’-x)の模式的グラフ.x'=x で発散的
に大きな値をとる.
1)一般には,重ね合わせのパ
ラメータ a は Â の固有値ではなく
てもよいが,以後本書で出てく
る例は,全て固有値に関する和
なので,パラメータ a を固有値と
して重ね合わせを定義する.
- 29 -
- 29 -
と同じものであることは,積分の定義を考えればわかる.いま,定義域を
[a0, an](⊂R)とする連続変数固有値 a の複素数値連続函数𝑐(𝑎)とベクトル値連
続函数|𝑎⟩が定義されているとする.この時,図 1.13a のように Â の連続固有値 a
に関するa0からanまでの一次結合を定義することを考える.その一次結合の近
似値として,
𝑆L =k∆𝑎Q ∙ 𝑐(𝑎Q8)|𝑎Q8⟩L
Q`2
(2)
で表される有限項の和を考える.この和は,固定値 a0から anまでの区間を n 分割
し1),分割された n 個の小区間 𝑎Q}2, 𝑎Q ) (i = 1, 2, •••, n)のそれぞれに含まれる
固有値𝑎Q8の値で決まる複素数 c(𝑎Q8)および分割された小区間の大きさ∆𝑎Q2)とケッ
トベクトル|𝑎Q8⟩からつくったスカラー倍𝑐(𝑎Q8)|𝑎Q8⟩∆𝑎Qを,i に関して足し合わせたも
のである.これは明らかに,ベクトル|𝑎Q8⟩の一次結合である.次に(2)式において,
n→∞の極限をとったものが,(1)式である.すなわち,
|𝜓⟩ = limL→�
k∆𝑎Q𝑐(𝑎Q8)|𝑎Q8⟩L
Q`2
= ¡ 𝑑𝑎 ∙ 𝑐(𝑎)|𝑎⟩*£
*¤ (3)
である.定義 1-45(1.13.1)において a が離散的な時には和の記号がSであったの
に対し
(4)
のように積分に置き変わっていることに注意せよ.
定義 1-45 に従うと,離散固有値の場合の展開式
|𝜓⟩ =k|𝑎⟩⟨𝑎|𝜓⟩𝒂
(5)
は,連続固有値の場合,
|𝜓⟩ = ¡|𝑎⟩⟨𝑎|𝜓⟩𝑑𝑎(5𝑎)
となる.|ψ〉が(5a)式の形に展開できるなら,両辺に〈a’|をかけた,
(6)
も成立つはずである. (6)式を見ると,左辺の〈a’|ψ〉は,右辺の被積分関数
〈a|ψ〉の独立変数 a に a=a’を代入した形になっている3).したがって,この式が
任意の|ψ〉について成立つためには,
(6a)
であればよい.(6a)式は自己共役演算子 Â が持つ「異なる固有値に属する固有
ベクトルが直交する」という性質と矛盾しない.そこで,連続的な固有値に属する
固有ベクトルの規格直交条件として(6a)を採用する.
a∑ → da∫
a ' ψ = a ' a a ψ da∫
a a ' = δ(a− a ')
3)〈a’|ψ〉は,p20 の(5.21)式で示し
たように,波動関数ψ(a’)を表して
いたことを思い出して欲しい.つま
り,〈a|ψ〉を, と考える
と,〈a’|ψ〉はa=a’の時のψ(a)の値
に等しく, である.従
って(6)式は,
となる.
a ψ =ψ(a)
a ' ψ =ψ(a ')
ψ(a ') = a ' a ψ(a)da∫
1 ) 下 式 で 表 さ れ る 小 区 間
𝑎Q}2, 𝑎Q )を集めた集合 D 𝐷 = t 𝑎Q}2, 𝑎Q )|𝑖 = 1,2,⋯ , 𝑛u を区間[a0, an]の分割という.
ただし i=1 の場合の左端 a0 と
i=n の場合の右端 an は,固定
値とする. 2)∆ai=ai–ai-1.
- 30 -
- 30 -
定理 1-46(1.13.2).規格直交化条件と状態の固有ベクトル展開
自己共役演算子 Â の固有ベクトル が,
(7)
を満たす時,任意の状態ベクトル は固有ベクトル により
(7a)
の形に展開できる. この定理 1-46 の証明は,離散固有値の時のような初等的な証明2)にはなら
ない.そこで定理 1-46 については,以下のような解説をつけるにとどめる.(7)式
を仮定すると,内積 と を掛けて,すべての a’について足し合わせ
る(積分すると)と,
(8)
ここで, (8)式は,
(9)
と書くことができる.(9)式は,任意のブラベクトル〈a’|に対して成り立つので, [ ]
内のケットベクトルは等しいはずである.従って
(10)
となる.つまり,規格直交条件(7)式を仮定すると,任意の状態ベクトル を固
有ベクトル で(7a)式の形に展開することができる.逆に,(10)式の両辺に〈a’|
を作用させると(9)式が得られ,(9)式が成り立つなら(8)式が成り立つからその
結果,(7)式が導かれる.■
ところで(10)式は,
(11)
と書くこともできる. に関わりなく(7.14)式が成り立つためには,
¡|𝑎⟩⟨𝑎|𝑑𝑎 = 𝟏�(12)
であればよい.この関係式も,量子力学の理論計算ではしばしば使用される.こ
の(11)式は(12)式と同値な式であり,ベクトル|𝜓⟩の|𝑎⟩による展開可能性(完備
性)を示している.以上まとめると,§1.8 で述べた離散固有値の場合の自己共
役演算子の固有値・固有ベクトルに関する性質が連続固有値の場合も成り立っ
ている.
a
a a ' = δ(a− a ')
€
ψ a
ψ = a∫ a ψ da
a ψ a a '
a ' a a ψ da∫ = a ψ δ(a− a ')da∫= a ' ψ
a ' a a ψ da∫"# $%= a ' ψ"# $%
ψ = a∫ a ψ da
€
ψ
a
ψ = a∫ a da"#
$%ψ
€
ψ
2)佐藤の超関数の理論を
使うと可能になる.
- 31 -
- 31 -
§1.14.連続固有値の場合の射影演算子
離散固有値の場合と同様に連続固有値に属する固有ベクトルを使って,§1.9
で示したように射影演算子を定義する.このセクションで定義する射影演算子は,
連続固有値を持つ系に後述する Born の規則を適用する上で重要である.
定義 1-47(1.14.1) 射影演算子
線型演算子 Â の固有値 a に属する固有ベクトルが|𝑎⟩であるとき,演算子
を
(1)
と定義し射影演算子とよぶ.ただし,区間(𝑎 − ∆, 𝑎 + ∆]は,不等式𝑎 − ∆< 𝑎 ≤
𝑎 + ∆を満たす固有値 a の集合を意味している.
いま±∆の幅を持つ固有値 a の近傍区間(𝑎 − ∆, 𝑎 + ∆]に含まれる固有値を a’と
すると,(1)式で定義された演算子 は,a’に属する固有ベクト
ル(ブラおよびケット)を使って記述されている.そして,(1)式を状態ベクトル|𝜓⟩
に作用させると,
(2)
となる.この式は,演算子 が,|𝜓⟩を固有ベクトル|𝑎′⟩(𝑎 ∈
(𝑎 − ∆, 𝑎 + ∆])の一次結合に対応させる写像であることを示している.
定理 1-48(1.14.2)
射影演算子は次の二つの性質を持つ:
1) (3) 2) (4).
[証明]
1) (3)式は,以下のようにして証明できる.
よって,
ˆP (a−Δ,a+Δ]
ˆP (a−∆,a+∆]= da ' Pa ' a 'a−∆
a+∆
∫ = da ' a ' a 'a−∆
a+∆
∫
ˆP (a−Δ,a+Δ]
ˆP (a−∆,a+∆]ψ = da ' a ' a 'a−∆
a+∆
∫ ψ
ˆP (a−Δ,a+Δ]
ˆP (a−∆,a+∆]= ( ˆP (a−∆,a+∆])2
ˆP (a−∆,a+∆]= ˆP †(a−∆,a+∆]
( ˆP (a−∆,a+∆])2 ψ = ˆP (a−∆,a+∆]⋅ da ' Pa ' a ' ψa−∆
a+∆
∫
= d !!a !!a !!aa−∆
a+∆
∫ ⋅ da ' a ' a ' ψa−∆
a+∆
∫ = d !!aa−∆
a+∆
∫ da '⋅ !!a !!a a ' a ' ψa−∆
a+∆
∫
= d !!aa−∆
a+∆
∫ da '⋅ !!a δ( !!a − !a ) a ' ψa−∆
a+∆
∫ = da '⋅ "a a ' ψa−∆
a+∆
∫
= ˆP (a−∆,a+∆] ψ
ˆP (a−∆,a+∆]= ( ˆP (a−∆,a+∆])2
- 32 -
- 32 -
が成り立つ.
2) (4)式は,
となり,成り立つ.
ψ ˆP †(a−∆,a+∆] ϕ = ψ , ˆP †(a−∆,a+∆] ϕ( )= ˆP (a−∆,a+∆] ψ , ϕ( ) = da ' Pa ' a '
a−∆
a+∆
∫ ψ , ϕ#
$%
&
'(
= da 'a−∆
a+∆
∫ a ' a ' ψ , ϕ( ) = da 'a−∆
a+∆
∫ a ' ψ * a ' , ϕ( )
= da 'a−∆
a+∆
∫ ψ #a a ' , ϕ( ) = da 'a−∆
a+∆
∫ ψ #a #a ϕ
= ψ da 'a−∆
a+∆
∫ #a #a$
%&
'
() ϕ = ψ ˆP (a−∆,a+∆] ϕ
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